屋久島宮之浦岳

熊本と宮崎の県境.蘇陽町。 そこに知る人ぞ知る幣立神宮がある。
天孫降臨の物語によれば表の伊勢神宮.裏の幣立神宮と言われている。
一万五千年前に五色の神々が集まり.世界中に平和を求めて旅立ったと言い伝えられている。

何とも立派な理念とスケールに感心する。 人類の歴史をたどってみると
アフリカからスタートした人類がこれだけ進化したのは.
好奇心に後押しされて世界中に散らばっていったことが.理由としてかんがえられる。
たかが旅行記にそんな理屈は必要無い.しかし人生に感動と好奇心の他に何があるのだろう。

旅と旅行を区別しておこう。旅行は段取り決めておくこと。 旅は出たとこ勝負.
サプライズの連続。人類の好奇心を満たすのは何と言っても旅ではないか。
おっと.これは自分の定義。

若いころ大御所といわれる作家が太い万年筆で頭を抱えながら文章をつむぎだす
ところを何かで見て憧れたことがあったが.今ではキーボードたたくことでやっと時流
の隅に掴まっている。

第1号は利尻島紀行であった。 第2号は屋久島宮之浦岳に決まっているではないか。
1月2日の正月のこと。 もちろん冬。

相似形の日本列島.象徴のような姿を何度でも訴えたい。全ての日本人に知って
もらいたいと念ずるからである。 繰り返すが利尻島と礼文島そして屋久島と種子島である。

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鹿児島からは快速艇トッピーで行った。大好きな西郷さん。あの大きな器を育てた
と云われる桜島。何度見ても鹿児島からの姿は素晴らしい。思わず深呼吸してしまう。

尖閣だ.竹島だ.クナシリ.エトロフだと愛国心は大切だが.中国.朝鮮.ロシア.日本人
も含めて.人の心はセコい。  結局.漁業権にまつわる損得と多少の軍事的優位性.
そして何より.つまらぬ人間ほど主張したがるプライドの応酬に過ぎない。

ま.一介の浪人であるからこんな批評をほざいていられるのであるが。
おっと西郷先生の話だった。 (敬天愛人)いいね。 誰でも偉そうなことは云うが
実行が供なわぬのが人の常.そこが西郷さんは一致していたらしい。なんて
思いながらトッピーで3時間。

漁師経営渡辺さんの民宿。東京から石鯛釣りのビジネスマン2人と夢を追う人生の
話でもりあがった。翌日登山開始.借りていたレンタカーで樹齢3000年と言われる
紀元杉の登山口へ標高を上げる。途中屋久ザルがでてくる。

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猿2万.鹿2万.人2万.と言われたそうだ。始めは珍しがってミカンを投げる.猿が
たくさん出てきて拾ったミカンを持って.ワイパーの上に乗ってくる。皮をむき出鱈目に
かじってすてる。フロントガラスがひどく汚れた。彼らには躾けが無かったことに思い
至り.反省。量子は猿を見て喜ぶ。

 

紀元杉.さすがに大きい.大きいが市房杉や霧島神宮のご神木杉と比べても大きさに
大差は無い。中身が詰まり年輪の密度が濃いのである。油成分が多く中々腐らず
木肌は光沢があり貴重な杉として.高値で取引され.トロッコ鉄道まで引いて町をつくり
小学校があった記録がある。

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A.M7.00登山開始.屋久島らしいうっそうとした森のなかを歩く。明らかに湿度の
高そうな森林で.この中を歩くだけで価値がある。 1週間に10日雨が降ると言われ
そこ.ここに小さな沢がある。と.云っても道がぬかるんでいる訳では無い。

日頃より行いがとても.とても良いせいか1月2日というのに暖かく良い天気であった。
森林浴の気分で楽しく歩く。猿が出てくる.今度は何もやらないよ。
宮之浦岳は下からその山容を窺うことは出来ない。

 

序々に視界が開けて来る.前座の山々の頂もみえてくる。頂の上からシカが顔を
見せる。少々小さい。7人の侍に出てきた部落の見張り番の様に怪しい奴が来たと
ばかりにジッと様子をうかがっている。
300メートルはあろうかと思える断崖の1枚岩の上を滝の様に水が流れている。
彼方此方歩いたがこんな景色.初めて。素晴らしい景観.きて良かった。

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まだ誰にも遭わぬ。量子と2人。
しばらく行くと上高地の大正池を凝縮したような景色が現れる。 これぞ花之江河と
言われるところ。一休みしたい.ゆっくりこの景観を味わいたいと思う。

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熊本で東京の山岳地図編集責任者へ電話した。 (冬の北アルプスの経験はあるか)
と聞かれた。天候次第ではそれ程の高山という認識はあった。

1936メ-トルの頂上に立った時は全くその認識は失われていた。それ位天気が
よかった。九州の最高峰は九重連山の中岳で1791メートルなので九州地方の
最高峰と云うことになる。

屋久島にはこの他に1800メートル以上のピークが7つ以上あるはずなので頂上から
の眺めは山々の連なりであった。しかし.小さな島のそのすぐ先には見渡す限りの
広い広い海であった。すぐ隣はるか下に種子島が見えるのみである。

何時ものことであるが行いがとてもとても良いので.冬とは思えぬ程暖かい。Tシャツ
1枚になって昼食をとりながら1時間30分恍惚感に浸っていた。量子も薄着で
楽しんでいた。まだ2人きり。

下って行く途中で縄文杉見学の7-8名の一行と出遭っただけ.2人の静かな旅で
あった。紀元杉の車の所へ着いたときは薄暮になっていた。  あぶない。
あぶない。この山は深いのだった。

翌日は島めぐり.一周105キロ。  狙いは平内海中温泉。 建物どころか脱衣所もない。
但し 無料.干潮の時のみ入れる。本物の自然温泉。 運よく干潮と出逢い早速入る。
北海道の相泊みたい。北の国からと云うドラマで純とトドが一緒に入った温泉だ。

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開放感100パーセント.気持ち良い。潮が満ちてくる。  あたたまりすぎたので
そのまま海で冷やす。また温泉に入っていると海鵜が首だけ出して温泉に入ってくる
ではないか。 好奇心に満ちた顔をしてキョロキョロしながら私達の周りをぐるっと
回ってでていった。 何という自然。

いずれ此処に住んでしまいたいと本気で考えてしまった。 今日は正月2日.
この快適さはなんだ。海は良い。しかし.山の魅力が上回る。自分は山派。四季の変化.

木々の移ろい.動植物.川魚の変化など.味わいが深い気がする。仙人。達人.高僧.
皆山に籠もる。
屋久島はとても良い所。 近くにあって本当によかった。

鹿児島へ帰るトッピーはとても揺れた。 15メートルの差はあろうかという波の間を
飛んでいたが.やはり途中で故障.量子の恐怖感は大変だった。30分位大波の中を
漂った。

量子は冬の船は二度と乗りたくないと言っている。
それでも屋久島は良い所だ。

2013.05.25  .IN熊本