富士山

富士山  2000/08/30
第6号を何処にするか迷っていた。
候補地をザッと挙げてみたら五十箇所以上にはなる。住んでいる人々にとってみれば
何処も住めば都であるし. 自然や歴史.遺跡がそれぞれある。

DSC_0626

キャンピングカーでの旅は.普通の急ぎ旅とは異なり何処で泊まっても良かった。
興味を引かれる所では自由に引っ掛かっていた為に.何処も.皆,良い所の印象がある。
つまり人は慣れてしまえばどこでも住めば都に感じていくのであろう。 そこで迷っていたが.
6月末に世界遺産に登録された富士山がタイミング良く浮かび上がったという訳である。

余りにも有名.誰でも知っている山なので印象深いところのみ描いてみたい。
富士山頂へは一回だけ登った。  登山の前日.北口本宮富士浅間神社へお参りをした。

DSC_0627  DSC_0631

 

 

浅間神社は全国に1300箇所もあるそうで.こんな長い名がついている。
富士吉田市にあり武田信玄等が寄進している立派な神社と聞いて.尊敬する信玄公が寄進したと
云う部分を随分時間をかけて眺め.歩いた記憶がある。

祭神は(このはなさくやひめ)で 大変美しかった為.(ににぎのみこと) の妻となり猛火の中で3人の
子を安産されたと云う.ことからモノを産み出す神.ムスビ(産霊)の神としてたくさん祭られている。
九州では宮崎の鵜戸神宮が有名。

有名な富士スカイラインを通った。吉田口から登る為である。 2300メートル.すでに天空の世界。
単独峯の為そして森林限界ギリギリなので樹木が少なく眺めは抜群。ここで一泊.明朝早出しよう。
世界遺産になる前から小さな町の様になっていたが.13年前は数件の粗末な山小屋だけであった。

DSC_0637 DSC_0634

霧の中.楽しくない道.想像していた通りのきついだけの登りが続く。 日頃の行いは良いはずなのに
小雨が降ってきた。 7合目から急に山小屋が目立つ様になってきた.登山客が少ない為ホッとする。
薄い霧の中だが単独高山の周囲にさえぎるもののない不思議な雰囲気がある。
単調だがきつい登りであった。やっとの思いで頂上到着. 早速浅間神社奥宮にお参りした。

DSC_0639 DSC_0638

 

憧れの山頂で手を合わせた途端.量子は大粒の涙と共に大きく嗚咽してしばらく止まらなかった。

理由は本人に聞いても分からない。考えられることは登山前半年位.肉離れを起こし.久しぶりの登山
だったことで感激がピークに達したのかもしれない。

もう一つの量子の好きな解釈がある。 彼女は助産婦で子育ての仕事を三十年している。だから
かどうかは定かではないが.以前から江戸の深いお付き合いをさせて頂いている.神宮の神官様
から貴女の守り神は (このはなさくやひめ) と云われていた事がある。

加えて何人かの霊を感じる人々から前世は (このはなさくやひめ) の近習や付き人だったと.
聞かされていたからかも知れない。
大変美しかったと言う祭神に本当に縁があるのならば.この上なき名誉であり自分もさしずめ

藤原鎌足の祖先位に当たるかも.などと どこの馬の骨か知れたものではないのを棚に上げ
しばしのロマンに浸ったことだった。
富士と云えば何といってもその姿の美しさであろう。 浅間神社の祭神の疑問がやっと解けた。

DSC_0632

富士の最も美しく見える所は何処かと言い出すと.絶対に結論が出ない程近隣から言い分が出る。
単独峯である富士山はその高さゆえ.日本では他に類のないスケールが広がる。

阿蘇山は巨大な外輪山の標高が800~900メートルあり.そのまま陥没前の高さに立ち上げる
と8000メートル以上になるといわれている。
大きく.広く瀬の本高原.九重高原を合わせた景観は北海道にも勝る広大さを感じる。
一方で冨士の頂上から裾野に至る真っ直ぐなラインは世界一と云われており.
随分昔から絵描きや写真家.風呂やに至るまでこの起伏の無い放物線を愛でている。
何と云っても他の場所を圧倒しているのはその高さである。
これだけは誰からも異論の無い日本一なのである。

海から見ても南北.中央アルプス.八ヶ岳.何処から見ても抜きん出ており. 飛行機の中でも富士山
が見えるとのアナウンスがあると皆一所懸命窓からその美しい姿を見て感動する。

昔から海外へ渡った人が明日を知れぬ状況に陥った時.ほとんどの人が富士山のある日本で
死にたいと願う.との話をたくさん聞いてきた。 要するに日本人の誇りなのであり故郷になって
いるのである。

頂上の山小屋に予約をして置いたのでそこへ入った。 雨と霧が益々激しくなってきた。
気になる天気予報を小屋の人にたずねた。 沖縄あたりに台風が近づいていると言う。
遠いからまだ大丈夫ですねと言うと. 明日はもっと激しくなると言う.疑いながらも小屋の人の話を
採用をした。 つまり. 泊まらずに下山することにしたのである。  これが大きな悔いを残した。

DSC_0640 DSC_0635

 

 

翌朝.鳴沢の道の駅から見上げた富士山は.くっきりと朝日に輝くあの美しい絵の様な姿であった。
あれから小雨と霧の中を苦労して下りてきたことが.悔しかった。
そういえば小屋の住人は若すぎた。 後年のことだが民主党の政権担当が若すぎたのと同じであろう。

冨士山麓には五.六回訪れている。 富士五湖はいずれも富士山とセットで日本離れした大スケール
で何処も素晴らしいリゾート高原という雰囲気を醸しだしている。

そんな中で一箇所異なっているのが忍野八海である。 小さなしかし深そうで透明な水をたたえ
ほとんどの池が森の中に囲まれている。カフェーやレストランのイメージも中々よろしい。
森林性猿の遺伝子を強く受け継いでいると思われる自分には大変心地よい所であった。

この付近は何でも日本一をうたっているが鳴沢の道の駅には.日本一と云われる湧き水があり.
キャンピングカー仲間に冨士に行くと言うと必ずペットボトルを持ってきて.汲んできてと頼まれる。
迷惑この上ない名水である。 前述したがここからの眺めは日本一だし近くに温泉もある。

但し熊本.大分と比べると料金が五倍以上するのでどなた様も御覚悟召されたい。
此のあたりでのんびりしていると.裾野の大らかなラインが清々しく心をのびのびさせてくれる。

正反対の雰囲気の場所がすぐ近くにある。
青木が原樹海。名前だけは有名で中に入ったひとは少ない。量子は語られる物語とそのイメージ
にビクビクしていたが大丈夫と励まして散策した。

あちこちに直径数十センチ位の穴があいている.深さは数メートル。 噴火した時流れ出た溶岩が
立木を呑み込み.そのまま燃焼か炭化させた痕跡と説明されている。

溶岩の磁気が強く迷い込んだら二度と出てこれない等の話を思い出す。 なんとなく湿気が多く
溶岩と苔と原生林が果てしなく続いており.整備など望むべくもない此の道は人気がないハズ。

こんな所で腹をすかせて衰弱死を選ぶのは賢明な選択とは思えない。しかしそこまで追い込まれた
人間に正常な判断を求める外野席の批判は意味を成さないだろう.などと話す。
量子はこんな気持ちの悪い所などへは絶対に来ないから心配いらないと言っていた。

歩きにくい道なので帰りを考えたら億劫になり.あまり奥まで行かなかった。
日本一の冨士の裾野に明るさと暗さのイメージが隣合わせに同居しているのは.陰陽のバランス
を神様が考えたことなのか。

DSC_0642 DSC_0643

DSC_0645 DSC_0644
富士登山の二日後.北岳から眺めた冨士は余りにも近く大きくナンバー2の威厳は霞んでいた。

2013/07/10  IN 熊本