北岳の思い出

2000.08.01 北岳

いつまでNO.2の北岳が登場しないのか?  大変失礼いたしました。
南アルプスの最高峰で.日本でも富士山につぐ高さを誇りながら.なぜか人気がうすい北岳
である。

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北アルプスでは 穂高. 槍 を筆頭に知名度の高い名峰といわれる高山がひしめいている。
それに加えて上高地.乗鞍.松本と観光地が近くアプローチにもめぐまれている。  温泉も多い。

南アルプスにアプローチする方法をすぐに思いうかべることのできる人は相当な旅の達人で
あろうと推察できる。  今回は富士山に登頂した後だったので本栖湖から奈良田温泉にはいる。
白鳳渓谷を通って北岳のふもとの広河原に向かった。このルートがものすごい難所であった。

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未舗装の狭い狭い道を延々と15キロMも走る。 気の弱い人は途中で不安になり行き着けない
と思う。  南アルプス林道はオフロードとしては最高。  4輪駆動であったから無事に行き着けた
気がする。 車が故障でもしたらぞっとする、何故ならあのコワーイ熊さんたちがウヨウヨしている

場所なのだ。 幸いにも広河原にはロッジがある。  熊が怖いのでロッジに泊まろうと量子。
人気が無いとはいえ北岳、間ノ岳、鳳凰三山の入り口である。 すぐ北には甲斐駒ケ岳、北西には
仙丈ケ岳が迫っておりそうそうそうたる名山に囲まれている。 上高地より標高が低そうなので

ずいぶん山奥に入り込んだなぁ という感慨をいだく。 高い山に囲まれている割には開放感が
ある。富士川の源流なのに広々とした河原でとても気持ちがよい。 登山者はすくない。
それとも もうとっくに出発したあとなのか。 こんな具合でいつもスタートはおそいのだ。

川釣り愛好者の自分はゾクゾクするような気分。 上流にまったく人の住んでいない川。
どこまでも透きとおった清流。 豊富な水量。 テンカラを気兼ねなくふりまわせる広々とした川原。
先行者の心配のない自分だけの川。 あのカワイイ熊たちといつ出っくわすかも知れない緊張感。

最高 最高 天国ダァー。    と喜んだのもつかの間、同行者が釣りに向いていなかったことに気づく。
量子である。 こんな山奥についてきてくれる事に感謝しながらも彼女は熊が怖いのだった。
男ばかりのパーティであればとことん熊に出会うまで釣りを楽しめるのにと 思いつつそんな

メンバーでは何日もの旅行はたいくつするかケンカするかで 続かないであろうと思う。 矛盾?
北岳に挑戦できるだけで有り難い。 一人では楽しくないのだ。 大体 仕事が現職のときは
仲間はほとんどスケジュールが合わなかったし経営者で山好きの人に逢ったためしがないのだ。

そんな訳で量子と会話を楽しみながらハードな標高差にいどむ。  北アルプスのように熟年女性
が ガヤガヤいいながら団体で歩く姿はここではまったく見られない。心細くなるほど静か。
さすがに道はしっかりしている。 標識もキチンと整備されている、登山者が少ないとはいえ

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南アルプスの主峰だけのことはある。ピークに近づくに従って岩盤だけになってくる。
ところが いたるところにお花畑が広がっている。 白馬岳をはじめとしてお花畑をいろいろ
たずねたが これほど種類と 数の多い山は 初めてで二人とも感動、感動の連続で疲れを

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あまり感じないうちに突然のように北岳頂上におどりでた状態であった。 出発して7時間30分、
険しくハードなコースだったが苦にならなかった 楽しい時間は短く辛い時間は長いのたとえどうり
である。山は良い。 人は何故山に登るのか。 いろいろその時で違うが私の今の心境は好奇心

を満たしている。 高価な好奇心だ。 宴会も色気も出世欲も賞賛もあまり気にならなくなった今
好奇心を追求するより他に何か面白い事がこの世にあるのだろうか。ノーベル賞でも もらったら
その受賞式はさぞかし魂がふるえるだろうな~、  可能性全くなし、 できる範囲で楽しもうよ。

 

北岳 3193M、 No,3の奥穂高岳 3190M わずか3Mの違いである。しかし奥穂高岳には
2Mを超える石垣がつくられていた。 きっと北アルプスが好きでたまらない人達がNo2を味わい
たくて創ったのであろう。 柔軟性や情緒と無縁な国土交通省のお役人がこんな人工物を

認めるはずがなく、ただの石垣に過ぎないものとなっている。 私は?といえば奥穂高岳の登頂
の際にはそこによじのぼり バンザーイと叫んだ記憶がある。 いい気なもんだ。
北岳の山頂はガスで展望は期待できなかった。 女房はじめ誰も認めてくれないが自分ほど

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普段の行いが立派な人間でさえ、こうした気象にであう事がある。 ただ平均的な人より多少
マシな証拠に9割近くが良い天候に恵まれてきた。 なぜなら予報の悪い時は登山を断念する
ことにしているのでアッタリマエ でありなにも人物が良いも悪いもないのである。

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100M下に北岳の肩(3000M)がありその小屋に泊まる。 高山特有の雰囲気がたまらない。
その雰囲気 ? なにかって?  行ってみて下さい。 いじわるって? 行かなきゃわからん。              ・
そうねー、 何というか、 空気が薄いというか、 きれいというか、 旨いというか、

とにかく静かで、 8月というのに寒いくらいで、 不愉快な行為をする下品な連中がおらず
テレビでおなじみ 吉本興行の人のあげあしをとって笑わせるバカタレントを見ないですむ。
どういう生き方が自分にとって快適なのかを考えさせて原点に戻してくれるのだ。

この歳になってもストレスの原因をきずかせてくれるのは、やはり山登りだろう。 現代は
あらゆる情報や知識は多ければ多いほど有利で得になるという観念が共有されている気がする。
そのためテレビで高い視聴率を取ろうとするならクイズ番組が一番手っ取り早いとされている。

しかしクイズ番組にでてくる知識で実際に役に立つことはほとんどないと言っていい。
なんとなく知りたいという欲求が満たされるだけなのである。 くだらないゴミみたいな知識を
懸命になって求めて喜んでいる気がする。

ときおり暇でながめていると、高学歴やインテリが売りのタレントが成績が良い、やはりというか
知識というのは重いわけではないので多くても邪魔にはならないのである。 知識について
昔聞いた住職の話はおもしろかった。 菊池の竜門ダムに流れ込む最上流に鳳来という

部落がありそこから離合はできないような細い山道を数キロ登ると曹洞宗の古刹がある。
永平寺の副住職クラスの人が派遣されていると聞いた。 聖護寺という熊本県の史跡である。
15年程前のことだが雲水が8人修行していた。 外国人が一人いた。

女人禁制が原則のはずだが寺の入り口に老婆が住んでいた。 老婆といっても背が高くほっそり
としてまっすぐのびた姿勢が印象的であった。 首も ほそく ながく若い時はそうとうな美人で
あったろうと想像した。 85歳位とそのとき思ったので今ではもう亡くなっていると思うが、

その女性が先代の住職の思い出を話してくれた。 どういうわけか昔から高僧とか悟った人は
山奥に住み海の近くは聞かない。なぜだろう? ま、いいか、 その人は昔から修行をしており
町での生活はほとんど知らないのに、どんな難問でも簡単に解決したという。

村人達の困ったときの相談相手であった。新聞、ラジオ、テレビ、電話、電気、水道を村人が
自分達が無償で提供すると願い出ても断ったそうである。時代が少しずつすすみ住職も齢
を重ねて来た頃、村人がこの時代になってあまりにも不便ですと何度も勧めに行ったところ、

とうとう (わかった、お前達の好きにしてよい) とのこと 喜んだのもつかの間
(ワシは2~3丁程奥に住む)      新聞、テレビ、情報交換その他何もせず
それでも村人達の誰よりも知っており知恵があったという。
若い頃 呑めもしないのに情報に遅れてはならぬと、毎晩のように飲み屋街に出ていた。
仲間たちが自分より情報に通じるのが怖かった。 今考えると若かった。
そしてつまらぬ時間を過ごしたとおもう。

仲間と切磋琢磨してお互いに成長する。 カッコイイ言葉だ。 大人の社会勉強、中洲産業大学
とは タモリの言葉。 もっともな尋常な青年の成長過程と思う。
悟りに近い高僧の話であった、一般の私達とは少々違う世界に住む人の様子を思い出して

いたのだった。 時おりこういう人のエピソードを聞くと いかに普段からつまらぬ知識や情報
をありがたがって 忙しがり 寂しがり ライバル心を燃やし あるときは嫉妬心に狂いもだえて
いたことか。 こういう生活をいつまでも続けていると

結局仲間以上の知恵がなくなり普通の横並びの人格がつくられていくのだ。
しかしこのほうがまわりとの摩擦がすくなく平和に暮らせる。 摩擦が少ないほど
打たれることも少なく気ずきも少なく円満だが平凡な人柄が創られていく。

南アルプス 北岳の話がどこへいってしまったのか。 このあとNo,4の高さを誇る間ノ岳に続く
話があるのに。

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数少ない経験によると中州産業大学を早めに卒業したり中退したようなタイプが脱サラする。
このあと指導者なしの人生で 辛酸をなめることになる。 運がよければ一時成功したかの
ような時期が訪れるのだが 大抵は若さゆえ天狗になり調子にのっているのでほとんど

ふりだし以下に戻る。 しかしこういう経験ができる人は前述したように運が良いのだ。大抵は
一時の成功も見ずにうずもれてしまう。 いずれにしてもこういう人生を選択した人々は順調な
生活をして来た人とくらべてみると特殊な体験をしているだけに 味わいのある人が多い。

ただし 夜逃げや四面楚歌のごとき辛酸をなめている人もいるので、驚くほどかたよったり偏屈な
人生観や哲学をふりかざすのが多いのもこれらの人々なのである。
順調な人とそうでない人の両極端を較べたが、実際の人生は無限の段階があり両方を備えて

いる人もおり簡単に分類、色分けなどできない。 しかし人生経験をだてに重ねて来ておらなけ
れば完全とはいえなくても大方の人物の見当はつくようになるものである。

一時 起承転結を忘れて思いを述べていたが やっと転結のくだりに着いたようだ。
知識、情報におぼれてばかりいるとつらつら述べてきたように自分が本当にやりたい事や
自分らしい人生がどんなものか 自分でしかも一人で考えることもせずうかうかと他人の価値観

に振り回されて あたら短い人生を馬齢を重ねる状態にしてしまうのだ。
前述した迷い無き 高僧達はそういった情報のゴミを避けていたのだった。
私はせめて量子と山に登り 無限にひろがる豊かな人生を精一杯味わうことにしよう。

北岳の肩の小屋(3000M)で 至福のひと時を味わっているのだった。
これから間ノ岳に向かう。 それほどの標高差がないのでお花畑を味わいながら山行を楽しもう。

 

3189Mの間ノ岳は北岳に挑む人はほとんど ついでに登る山だが近くに農鳥岳(3051M)
もある、ランキングはNo15位であるが百名山をめざしているわけでもなく、早くおりてなさねばならぬ
ことがあり間ノ岳だけ登頂した。 天候はほどよく 一昨日登った富士山がこんなにも近くに

あるのかと思えるほど大きく見えた。 3000Mの高さから見る巨大な富士山は赤石山脈
(南アルプス)だけの特権であるかのような誇らしげな大きさであった。

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間ノ岳から引き返して北岳荘で休憩。 八本歯のコルを通って広河原へ向かう。
やはりハードなコースには違いはなく難所であったが、 ここだけに咲くという北岳草が
たくさん現れ、 きつい気持ちもついつい慰められて難なく下山。 16時であった。

今日は食事もあるのでロッジに泊まろう。 明日はなさねばならぬことがあるのだ。
川釣り   この事は槍ヶ岳の旅でかなり書いた。 はまる と言う言葉がピッタリの繊細でいて
強烈な刺激をともなっており、 現代の男が人生のどこかの時点で体験したい生き物との

格闘技であろう。  昔から男の証明はどれだけ狩猟できるかであった。
エネルギーが旺盛な男子が青年期以上にさしかかったとき 最もとまどうのがセックスエネルギー
と、それに伴う好奇心の振り向け先である。セックスエネルギーはいうまでもなく昔からこの世の

根本問題であった。 重要問題にもかかわらず一度も明文化されず教育もされずに来たと言う
ことは、いかにこれが個人の裁量、つまり生き方の違いであることを物語っている。
不器用であったり要領のワルイ人がこの世にたくさんいることはご存知であろう。

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この手の人達がエネルギーの使い方で損をした例は枚挙にいとまがない。
エネルギーを正当に爆発させるにはスポーツしろ勉強しろと指導された気がするが何故か
納得がいかなかった思いがある。

比較的軽い犯罪で発散する方法では暴走行為、大騒ぎで祭りの練習、無謀な冒険 いろいろ
思い浮かぶがなかなか難しい。
川釣りは 700M以上の上流、源流でタヌキ、ヘビ、イタチ、ネズミ、時には熊、と出会いながら

憶病な魚にソット忍び寄る静けさを要求され 禅の心境に迫ったかと思った次の瞬間には
この小さな水量の 川のどこに潜んでいたのかと思えるような一尺に近い元気なヤマメと
10分位のバトルを繰り広げることになり 強烈な刺激を与えてくれる。

彼らの命を奪うからにはこちらも相応の礼をつくさねばならない。 と悟ったのは一年位経って
からで 気付くのが遅いのはやはり凡人の証である。

南アルプスの最奥地であった。広河原のさらに奥地に車をとめて 勇躍 イワナと対決しようと
準備して100Mほど先の渓流にはいった。 ふと気配がして後ろを見た。 熊 ではなかった。
量子であった。 熊が怖いのでキャンピングカーで本でも読んでいるはずであった。

なんで来たの?
困ったことになったの、
これから釣りをはじめるのにー なんねー

実はー   チョット外に出たんだけど
うっかり車の鍵を締めちゃったー
エーほんとかよー

真っ青になった。 こんな山奥で熊がウロウロするところで ドーしたらいいんだよー
釣りどころの騒ぎではなくなった。 車の名人が周りをウロウロ。 良い知恵はないものか?
そーだー

キャンピングカーは後ろに窓がある、 そこの鍵はしばしば掛け忘れる。
祈りを込めて開いてみた。  ヤッター  釣りのことは忘却していた。
この後乗鞍の剣が峰(3026M)に登って乗鞍高原で釣りをして帰りました。

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乗鞍高原良い所です。そのうち白骨温泉と一所に登場します。